フェアプライス24時間店に学ぶ、生鮮強化と便利さを両立するスーパー改革

LOW-PRICE MARKET / FIELD REPORT

フェアプライス24時間店に学ぶ、生鮮強化と便利さを両立するスーパー改革

シンガポールのフェアプライスが始めた、生鮮売り場を主役にした24時間営業の新型店を解説。ウェットマーケット型の売り場づくりが、日本のスーパーや小型店の商品構成、店舗運営、地域戦略に与える示唆を考えます。

ニュースの概要

シンガポールのFairPriceが、パシルリス地区で24時間営業の新店舗を開業した。特徴は、日用品を並べる従来型のスーパーにとどまらず、青果と鮮魚を広く展開し、地域のウェットマーケットを思わせる売り場を取り入れた点にある。鮮魚の対面販売、野菜や果物の豊富な品ぞろえに加え、冷蔵・冷凍食品も厚く配置。低価格商品を軸にしながら、買い物の楽しさと鮮度を両立させ、時間を選ばず日常の食材を購入できる店を目指している。単なる営業時間の延長ではなく、店内で何を見せ、どのように選ばせるかを組み替えた取り組みといえる。

引用元: フェアプライスが24時間営業の新型スーパーを開業、青果・鮮魚を強化(The Straits Times)

分析・見解

24時間営業の価値を生鮮売り場で作り直す

24時間営業は、営業時間を延ばすだけでは利益が出にくい。深夜の来店客は昼間より少なく、人件費や電気代は一定程度かかるからだ。今回の店舗が示すのは、便利さを「いつでも買える」だけでなく、「その時間でも食材を選べる」ことへ広げる考え方である。青果や鮮魚を前面に出せば、仕事帰りの夕食需要、早朝の仕込み需要、急な来客への対応まで取り込める。

特に重要なのは、低価格の生活必需品と、生鮮食品の体験価値を同じ店で組み合わせた点だ。洗剤や米だけなら、価格比較を受けやすい。一方、鮮魚の見た目、売り場のにおい、対面での相談は、ネット通販や小型店では再現しにくい。価格競争に偏らず、来店する理由を複数持たせる設計になっている。

ウェットマーケット型売り場は廃棄管理が成否を分ける

生鮮売り場を広げると、品ぞろえの魅力は高まるが、売れ残りの損失も増える。鮮魚は天候、曜日、祝日、周辺の飲食店需要に左右されやすい。野菜や果物も、気温や入荷量によって販売速度が変わる。したがって、売り場の広さだけをまねても成果は出ない。時間帯ごとの販売実績を細かく把握し、発注量と値下げ時刻を調整する仕組みが必要になる。

実務では、商品ごとの在庫数、入荷時刻、消費期限、売れ行きを一つの画面で確認できる状態が望ましい。販売データを使っても、現場の判断を置き換えるのではなく、担当者が「今日は雨なので葉物を減らす」「夕方に刺身を厚くする」といった判断を早く行えるようにする。生鮮強化の本質は、商品を増やすことではなく、変動を管理する力を高めることにある。

対面販売と冷蔵食品が買い物の目的を広げる

鮮魚の対面販売は、単に商品を渡す設備ではない。調理方法や量を相談できれば、魚を買い慣れていない客も選びやすくなる。これは購入単価を上げるだけでなく、家庭での調理不安を減らす働きも持つ。冷蔵・冷凍食品を近くに配置すれば、鮮魚を主菜にした食事を短時間で組み立てられるため、売り場間の回遊も生まれる。

日本でも、魚を切り身中心にして下処理の手間を減らしたり、野菜と調味料を近くに置いて献立を提案したりする方法は有効だろう。重要なのは、個別の商品を売るのではなく、夕食や弁当といった生活場面を売り場全体で支えることだ。ウェットマーケットの活気と、現代的な冷蔵・冷凍の便利さを組み合わせる発想に競争力がある。

日本の小型店は全面導入より地域別の縮小版が現実的

日本の24時間小型店が同じ規模の鮮魚売り場を導入するのは難しい。売り場面積、専門人材、納品頻度、廃棄管理の負担が大きいからだ。ただし、駅周辺なら単身者向けの少量野菜、住宅地なら夕食用の魚とカット野菜、病院周辺なら調理済み食品というように、地域の需要に合わせて生鮮の重点を絞ることはできる。

今後は、全店一律の品ぞろえより、商圏ごとに生鮮の役割を変えるチェーンが強くなる。大型店は対面販売と豊富な品ぞろえ、小型店は少量・即食・予約受け取りに集中する。営業時間も、深夜の客数だけで判断せず、早朝の需要や周辺施設の勤務時間まで含めて設計する必要がある。

ビジネスへの影響

出店判断では客数より時間帯別の買い物目的を見る

24時間店を検討する企業は、まず一日の来店人数ではなく、時間帯ごとの買い物目的を分けて把握すべきだ。深夜に飲料や弁当が動く地域と、早朝に生鮮や調理材料が動く地域では、必要な売り場も人員配置も異なる。周辺の住宅、工場、病院、交通拠点、飲食店を調べ、午前、昼、夕方、深夜の客層を仮説化することが出発点になる。

試験導入では、全品目を増やすより、青果数品、魚の切り身、冷凍主菜など重点商品を設定する方が検証しやすい。見るべき指標は売上だけではない。時間帯別の粗利益、廃棄率、値下げ率、欠品率、従業員一人当たりの作業量を追う必要がある。生鮮は売上が伸びても廃棄が増えれば利益が残らないため、商品別に採算を確認する仕組みが欠かせない。

店舗運営は専門人材とデータの役割分担を先に決める

鮮魚や青果を強化する際は、採用と教育を出店計画の後回しにしないことが重要だ。対面販売では、加工技術だけでなく、客の要望を聞いて提案する力が求められる。深夜帯まで同じ水準を保つなら、複数の担当者を育成し、作業手順を標準化しなければならない。小型店では、店内加工を限定し、集中加工拠点から商品を届ける方式も選択肢になる。

発注支援の仕組みは、天候、曜日、価格、過去の販売履歴を組み合わせると効果が高まる。ただし、自動発注をそのまま信頼するのではなく、現場が修正した理由を記録し、次回の発注に生かす運用が必要だ。データは管理部門だけのものではない。売り場担当者が翌日の品ぞろえを改善するための道具として使ってこそ、投資効果が出る。

日本企業が取り入れるべきは売り場の大きさではなく役割設計

この事例から学ぶべき点は、海外店舗の外観や商品数を再現することではない。価格訴求、鮮度、相談対応、時間の自由という異なる価値を、一つの店舗でどう分担させるかである。例えば、夕方は鮮魚と野菜を主役にし、夜遅くは冷凍食品と即食商品を厚くするなど、時間帯で売り場の表情を変える設計が考えられる。

企業はまず一店舗で小さく試し、客層、廃棄、作業時間、再来店率を確認するべきだ。成功条件が見えた後に、商圏の似た店舗へ広げる方が、全店改装より失敗の影響を抑えられる。24時間営業と生鮮強化は別々の施策ではない。来店する理由を時間帯ごとに作り、運営負担を抑えながら利益につなげる店舗設計として捉えることが重要である。

関連記事